
目次
こんな方にぜひ読んでいただきたい
現在のインフルエンサー市場は各SNSやコンテンツプラットフォームへの参入者が増え、広告を獲得することが難しくなってきていますよね。
今後もさらに参入者が増加する中で、インフルエンサーにとって実は関わりが深く、収益源の柱としてしっかり把握しておきたいライセンスビジネスについて解説します。
また、インフルエンサーというとメディアに出てくるような特定の方をイメージすると思うのですが、ぜひデザイナーや漫画家、動画制作者、美容師、アーティストなどファンやフォロワーの支持によって付加価値を高めていく仕事や活動に関わる方々に幅広く読んでいただけたらと思っています。
※ライセンスビジネスは対象が製薬関係の特許やIT関連の技術特許など多岐に渡るため、この記事ではインフルエンサーにマストで関わることだけを抽出しています。
そもそもライセンスビジネスとは何なのか?
基本構造
二次使用権の主な種類
- 商品化権(マーチャンダイジング権)
・商品化権(オリジナル商品の企画開発販売、既存商品の輸入化権等) - 版権
・イベント化権(展示会・テーマパーク・物販・飲食店展開等)
・ゲーム化権(デジタル化権)
・原作権(映画化・ドラマ化・舞台化等)
・出版化権(書籍・電子書籍等)
・プロモーション化権(広告宣伝販促使用)
カゴメキャンペーン:https://www.kagome.co.jp/campaign/pasta21aw/
画像:Adobe Stock
パブリッシャーがライセンスを使ってビジネスをする理由としては、商品やサービスに認知度のあるコンテンツを掛け合わせることによって『付加価値を上げ、より消費者の手に取ってもらいやすくする』ということを目的としています。
上記のようなマス向け商品だけではなく、ハイブランド同士のコラボレーションや有名アーティストとのコラボレーションも同様にライセンビジネスの領域です。
ライセスビジネスとして掛け合わせる対象となる主なコンテンツは、キャラクターやブランドの『著作権や商標・意匠権』と、有名人(俳優、タレント、声優、スポーツ選手等)の『肖像権』に関わる対象を指しています。
また、財産権としての肖像権は、有名人の肖像が商品を販売する際に顧客吸引力となると認められた権利です。
主なライセンス業界用語
- ライセンサー(Licenser)
法人または個人の肖像権利者、著作権利者や知的財産権利者(特許権 / 商標権 / 意匠権等)
- ライセンシー(Licensee)
ライセンサーとのライセンス契約により知的財産権やノウハウ等について、実施権、利用権などの許諾を受けビジネスを行う
法人または個人
- ライセンスエージェント
ライセンサーの代理人として営業活動やロイヤリティ管理、ライセンシーへの監査などの実務を行う法人または個人 - プロパティ
商品化・版権の対象となるもの(コンテンツ)の総称
- ロイヤリティ
ライセンシーがライセンサーに支払う使用料。プロパティ・流通の規模・プロパティの使用使途等によりロイヤリティ率は変動し、定額+定率で設定されるケースが多い。
- ミニマムギャランティ(MG) / ミニマムロイヤリティ
最低ライセンス料(契約期間中毎年発生する)。コンテンツを扱うライセンス契約の場合、カテゴリーが非常に細かく設定されており、各カテゴリーをライセンシーに契約期間中は独占させている状態になるため、ミニマムギャランティが発生する。
- オーバーロイヤリティ(OR)
契約締結時に共有しているディールメモ(ビジネスプラン)を基に設定したミニマムギャランティを超えて実際の売上が上回った場合に追加で発生するロイヤリティ
※ライセンス契約を締結する分野で使用する用語に偏りがあるのでご注意ください。
ライセンスビジネスの特徴
- 上代と形のある商品がない商取引
・ライセンサー優位の取引
・使用を希望する法人または個人が条件を整えて提案し交渉がスタートする
・ロイヤリティの金額は最終的に、使用を希望する側のビジネスプラン(マーケティング戦略・売上計画)で決まる - ライセンス契約はライセンサーとライセンシーの直接契約
・第三者を介さない直接契約
・スムーズに納得のいくライセンス契約を締結するにはコンテンツ、マーケティング、流通、小売、製造、メディア、エンターテイメント等、様々な業界を横断した知識や経験値が重要 - その他
・グローバルスタンダードなビジネス
・主に先進国で盛んに行われているビジネス(飲食チェーンは成長途上国にも積極的に進出している傾向)
・ライセンス契約後も、ライセンスを使用するすべての一挙一動にライセンサーの許諾が必要
・契約時に決めた細かい条件を遵守しなければいけないビジネス
・ライセンサーはブランドの価値向上に最も注力し、プル型の営業スタイル

インフルエンサーがライセンサーになるには
ライセンサーになるために必要なことは大きく分けて4つの要素に分けられます。
- 著作権は無方式主義(無登録)、商標権や意匠権は登録が必要
・存続期間は商標権10年(更新可能)、意匠権25年
・国ごとに登録が必要 - ライセンシーにとって魅力的なコンテンツとは
・すでに人気を有していて付加価値を創出できるもの(契約後のビジネスへのインパクトが試算しやすい)
・たくさんの人が知っている
・特定の人たちに圧倒的な価値がある - ライセンサーの責務
・コンテンツの人気を維持し続けなければいけない
・人気や特定の人たちからの価値がなくなるとライセンス契約をしている「商品」の売上に影響を与える - ライセンス契約に向けて必要な準備
・スタイルガイドの作成(ロゴ、キャラクターアート、背景、色彩、パターン)
・各種ドキュメントの作成(ライセンス契約書、アプルーバル申請書、売上報告書の雛形等)
2、3はすでにインフルエンサーとして活動されている方であれば熟知されていると思うので、1、4を中心に以下で補足します。
1. 商標の登録について
商標登録はキャラクター名や商品名、ブランド名、会社名など名称を登録できます。
その他にも新たに音商標や色彩商標、ホログラム商標、位置商標、動き商標という領域の商標登録が平成27年から可能になりました。
商標は、もちろん既に登録されているものは取得することはできません。
また、『着物(Kimono)』のように誰にも商標は取得されていなくても、すでに認知度が高く、日本古来の衣装を指す名称として周知されているようなものに対して、誰かが理屈的には申請、取得できたとしても、倫理的に見て批判を買うような内容の場合は申請を取り下げることになる可能性もあります。
実例として、2019年にキム・カーダシアン(Kim Kardashian)が自身の矯正下着のブランド名を『Kimono』とし、商標登録までしようとしたことに対して批判を買い、申請を取り下げたケースもあります。

ここまで大事になった理由としては、実際の着物とキムのブランドの矯正下着が全く異なるもので、文化の盗用だという議論は上澄みでしかなく、根幹には日本企業に金銭的ダメージを与える危険性があったからでしょう。
申請が通りいくつかの分類(カテゴリー)でキムのブランドが商標を取得した場合、今後『Kimono』という名称を指定した分類内ではキムのブランド以外は誰も使用できなくなります。
また、無断で『Kimono』という名称を使った場合は警告文が送られてきて、使用しないように通達されます。
それでも使用している場合は法的処置を取られ、損害賠償を支払わなければいけない状況になる可能性もあります。
このように『商標権』は、商品やブランド、会社、様々なビジネスシーンでブランド戦略、差別化を図る上でとても重要な役割を担う権利です。
また、商標権以外にも取得までのハードルは上がりますが、『意匠権』 は特徴のある「形」=デザインに対して独占排他権が与えられるため、第三者によるデザインの模倣品や類似品の販売等を排除することができ、ロングセラー商品を生み出しやすくなります。

4. ドキュメント準備
自身の著作権や商標権、肖像権を第三者に使用してもらう際に、準備しておくとスムーズなのが、スタイルガイドです。
例えば、コンテンツを制作する際にどこかの企業ロゴを使ったことがあるインフルエンサーの方もいらっしゃると思うのですが、企業ロゴの使い方が指定されたページがありますよね。

このような取扱説明書の役割を担うデザインガイドラインのようなドキュメントをスタイルガイドと言います。
ライセンスビジネスにおけるスタイルガイドの形式は統一フォーマットはなく企業によってかなり幅があります。
そのため、時間短縮のために専門家からのサポートを受けることを検討すると良いでしょう。
また、世界最大のライセンスビジネスネットワークであるライセンシングインターナショナル(Licensing International)の日本オフィスでは、スタイルガイドの作成講座も定期的に行われています。
ライセンシングインターナショナルジャパンにアートリガーも会員として所属していますが、ライセンスビジネスに関わる専門領域の企業が所属しているので、実務をサポートしてくれる企業や個人を紹介をしてもらうと、よりライセンスビジネスに向けた準備もスピーディーに進みます。
インフルエンサー発商品について
まず、インフルエンサー発の商品は大きく分けて二パターンに分けられます。
- プロデュース商品
プロデュース商品は企業案件として打診され、上記で解説した肖像権を企業に貸し(ライセンスアウト)、二次使用料を受け取りマネタイズしているケースです。 - 独自ブランド商品
独自ブランド商品は資本を自身で投入し、自身がオーナーとなり会社経営者として自身の会社から役員報酬を受け取りマネタイズするケースです。最終的にそこから事業拡大し、M&AやIPOといったイグジットを目指すことも可能です。
商品の関与度で言えば、当然自身がオーナーとなる独自ブランド商品の方が関わる時間や責任は増え、コミット度が高くなります。
プロデュース商品の場合は、企業案件として打診してきた企業が商品開発及び消費者に対する責任を担っています。
先進インフルエンサーの失敗から学ぶ
D2CやP2C市場の需要が高まる中で、プロデュース商品や独自商品のローンチを目標にしているインフルエンサーの方は多いのではないでしょうか。
成功例だけでは見えてこない学びを失敗例にも目を向けたいと思います。
以前炎上した後に男らしい快進撃を見せた、てんちむさんのプロデュース商品「モテフィット」、ローランドさん、GAKUTOさん、門りょうさんの合同企画商品「G&R」だったりは異なる理由で炎上していましたが、本来の構造的には炎上する類のものではありません。
以下では、なぜ先進インフルエンサーの商品が炎上してしまったのかを簡単に要約しました。
てんちむさんのケース
てんちむさんのケースはプロデュース商品に対して不当表示となるような事情が絡み炎上してしまったようです。
そのため、今後プロデュース商品の企業案件を受けようかと検討されているインフルエンサーの方は、肖像権の使用を付与するライセンサーという立場の意識を高め、自身の肖像を使用した商品の広告やプロモーションに不当表示が含まれていないかを都度チェックするように心掛けましょう。
または、リーガルチェックができる担当者か弁護士に確認してもらう体制を作りましょう。
景表法で規制されている3つの「不当表示」
- 有利誤認表示
- 優良誤認表示
- その他誤解されるおそれのある表現
ローランドさん、門りょうさん、GAKUTOさんのケース
このケースは不祥事というよりは、国内の大半の低価格アパレル商品の慣習である「擬似セレクトショップ化」に則って商品が出されていたので理屈的には問題はなかったようです。
ただ、人気がありいつも辛辣にコメントを気持ちよくしてくれるこの三名がタッグを組んだことによって、商品に対してものすごく期待値が高かかった分、安く買い付けされた商品にタグが付け替えられただけと知った消費者の怒りを買ってしまったのでしょう。
商品のクオリティと消費者の期待値コントロールに気を配る
人気のある人物の商品というのは必然と消費者の期待値が高まってしまう傾向にありますが、提供側としては初めての試みで今後収益化が進むか、スケールするか分からないチャレンジに対してなかなかコストを最初からかけずらいという問題があります。
そのため、初めから広くあまねく消費者向けに商品を作らず、限定したターゲットやコアなファン向けにまず商品化する等、一点突破できる部分を見つけることがリスクマネジメントや消費者の期待を裏切らないためにも念頭に置くと良いと思います。
一点突破した後に、それを横展開させていきながら商品ラインナップを増やしたり、品質を向上させていきながら独自ブランドを確立していくとより消費者の喜ぶ商品を継続的に生み出すことができるでしょう。
インフルエンサー発商品の黎明期
このように独自ブランド商品を作るにあたって、手を加える度合いは様々ですがOEM商品開発が一番クイックにクオリティが担保された状態で商品を作ることができます。
その理由としては、ウェブサイトのデザインテンプレートのような形で複数のテンプレートを企画開発会社や製造メーカーは保有しており、その雛形に改変を加え、独自ブランド商品を作ることができます。
コスメ商品もテンプレートにある成分の量や香り、色、容器などを改変するだけで新たな商品として正式に販売することができます。
近年こういったインフルエンサー発の商品が増えてきているという傾向に対して、懐疑的なイメージや反発を受けることも多そうです。
しかし今後、幻滅期を抜け最終的に実業家を目指すインフルエンサーたちが、本腰を入れて商品やサービス開発をする未来の消費活動やビジネスシーンは、今以上の変化が起こりそうな予感がします。
また、以下三点の優位性をインフルエンサー発の商品は持っていることで、今後大企業の商品と同等レベルもしくはそれ以上の品質の商品が出てくる可能性があると考えられます。
インフルエンサー発の商品が品質向上のためにコストをかけられる理由
- 発信力やフォロワーからのエンゲージメントを獲得しているインフルエンサーは商品販売にかける広告費がほとんど必要ない
- フォロワーに対して直接コミュニケーションをいつでも取れる状態なので、マーケティングコストの負荷が低く、PMF(Product Market Fit)をすぐに把握することができる
- 最小限のスモールビジネスチームで運営しているため固定費が少なくて済む
このようにコストバランスを柔軟に配分でき、察知したことをクイックに実現できる体制によって、今後国内の146兆4570億円ある小売市場は大きく変化することでしょう。
現在日本では、インフルエンサーの実業家としての側面に対して認識が薄かったり、そもそも海外に比べてインフルエンサーが法人化するケースもまだ多くないようです。
今後インフルエンサー、強いては一人ひとりの個性を専門家や企業が後押し共創することで、今までとは違った形で各企業が利益を得られる仕組みを実現することによって、消費者も提供者もハッピーな世界になると良いですね。