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日本動産鑑定×パソナナレッジパートナー×アートリガー3社で座談会を実施
「無名の中小企業が保有する技術や資産は、実際にどのくらい価値があるのか」
銀行やVCから融資・投資を受けるにあたり、多くの経営者が気になるテーマではないでしょうか?
今回は、日本動産鑑定の久保田理事長、パソナナレッジパートナー中西様、アートリガー代表の堺谷の3名が「事業性評価とこれからの知財」をテーマに座談会を行いました。
事業性評価、知財評価、特許にはじめて関わる方に、是非読んで頂ければと思います。
▼PDFはこちら。全文はその下からはじまります。
財務諸表だけで融資判断をするのが本当に正しいのか?バブル終焉で見えた銀行融資の「不」

–日本動産鑑定の久保田理事長は、元銀行マンとしてバブル全盛期を過ごされています。どのような想いで、いまの事業性評価の仕事に行き着いたのでしょうか?
久保田:まず「事業性評価」という言葉には、動産、不動産、売掛金、財務諸表の評価、それからいま話題の知的財産の評価も含まれます。
私は、銀行の支店長という立場でバブル崩壊を経験しました。
当時、優秀な社長さんたちが涙を流しながら倒産をしていくのを救えず、悔しい思いをしました。
その頃は、「すぐに売上が伸びないが高い技術力を保有する中小企業」に対してお金を貸し出す仕組みがほとんどなかったのです。
銀行の融資といえば、財務諸表を見て、決算の内容が悪いので「不動産担保をください、保証人をください。だったら融資しますよ。」という手法です。
これが本当にいいのか、10年間ずっと疑問を持ちながら過ごしました。
1999年の4月に小売業のドン・キホーテに出向して、現場経営を学びました。
6年経過したころに「動産譲渡登記制度」が制定し、正式に動産登記ができるようになるとの話がありました。
そこで一気に頭の中が変わって、「かつては不動産がなければ救えなかった企業を、動産を評価することで救えるのではないか」と発想を展開しました。
そこから様々なレールを引きながら、今の日本動産鑑定に至ります。
堺谷:新しい評価体系を確立していくのにも、久保田理事長のものすごい努力があったと推測します。
2020年にフェイスブックの創業メンバーたちが独立してB Capital Groupというファンドを作りました。
「自分たちでマーケティングリサーチをして、会社に投資する価値があるか判断をする」という投資スタイルですが、本質的には久保田理事長のお取り組みと一緒だと思っています。
日本企業を取り巻く特許、知財評価の実態

-パソナナレッジパートナー社は知財評価を社外向けに提供されています。どのような経緯でサービスを開始されたのでしょうか?
中西:私は元々パナソニックで技術畑を歩んできました。
久保田理事長と最初に会ったときは、パナソニック社内への調査業務を提供してきたんですが、それから徐々に外部のお客さまに対してサービスを提供することになりました。
社内の知財調査は、経営層に直接報告することは滅多にありません。
ですが、同じことを中小企業の経営層向けに行うと、とても喜んでいただけ、その場で経営者からフィードバックがもらえることがわかりました。
現場を見て感じたのは、日本の中小企業が実はびっくりするような技術を持っていて、まだまだ捨てたもんじゃないんだなと。
ただ、多くの企業が、特許権、商標権を取得したが、十分使い切れてないというのが実態です。
中小企業の社長さんが悪いわけではなくて、おそらく弁理士の方がうまくサポートしきれていないのでしょう。
権利を取ること自体が目的になってしまい、それをどう活用して事業に生かすか、十分に考えられていません。
-特許調査を行うことで中小企業にどんなメリットがあるのでしょうか?
中西:特許は、企業が莫大な研究開発費と時間を投資した成果なのので、本来であればみすみす公開したくないんです。
ただ独占権は欲しいから、やむを得なく公開します。
例えば10年間、日本、米国、欧州で特許を維持したら大体1,000万円ほどかかる。
それだけ膨大なお金をかけるということは、そこに「経営の意思そのもの」が込められているわけです。
そういった「本当は社外に公開したくない情報」を分析していくと、その会社が何を考えてるか具体的にわかってくるんですね。
それを我々がお客様にお伝えすると、こんなことまで分かるんですね、とかなり感心していただけます。
特許も出願をうまくクリアすれば、中小企業も競合他社と比較して、自分たちの立ち位置も見えてきます。
特に最近では「新規用途探索」という、自分たちがコアで持っている技術を他の事業に活かすための用途が増えています。
昨今、コーポレートガバナンスコードが改訂されて、上場企業は知的財産をどう統制しているかのポリシーを開示することが義務化されました。
近い将来、中小企業も上場企業に倣ってやっていくことになるのではないでしょうか。
実際にベンチャーが事業性評価を受けた後にどうなったか

-アートリガーは、事業性評価を実際に受けたベンチャー企業の1つです。その後どのような変化がありましたか?
堺谷:弊社のブロックチェーン技術が金融機関やVC(ベンチャーキャピタル)に伝わりづらい内容だということもあり、パソナナレッジパートナーさんに知財評価のレポーティングをしていただきました。
今回、私たちは西武信用金庫様の推薦により無償で事業性評価を受けることができましたが、本来は制作すると100万円相当の価値のある評価書だと聞いていました。
実際にその価値を感じることができる詳細で良質なレポーティングをしていただけたと感じています。
第三者からお墨付きをいただけたことで、銀行やVCの方に対してもすごく有利に働いたと思います。
VCからは、経営者がどれだけ外とリレーションが取れてるかが重視されがちです。
ですが、実際は経営者はやることが多く、余裕がないものです。
今回、売上がほとんど発生してないシード期に事業性評価を受けたことが銀行にも伝わり、実際に融資を受けることができました。
久保田:まさにアートリガーさんの持っているブロックチェーンの技術力は、他の会社がまだ気づいてない何かに使える可能性がずいぶんあるなと、私も中西さんも感じています。
中西:「評価」という言葉は私はあまり好きじゃなくて、上から目線で評価する感じに聞こえてしまう。
評価レポートというよりも、その企業の「取扱説明書」を作るイメージに近いかもしれないですね。堺谷さんが仰るように、受けていただくメリットは必ずあると思います。
中小企業でも事業性評価を受けるにはどうすべきか?

–これからの時代は、中小企業でも融資を受けやすくなるのでしょうか?
久保田:いま金融庁が推進しているのが、先ほどもお伝えした「事業成長担保化」です。
動産や知財を含め、不動産以外を事業全体の価値として包括的な担保権を設定する動きです。
これによって、金融機関も保全(=融資先が返済できなくなった際に、金融機関が回収するための担保や保証)がしやすくなります。
ただ、知識がないと評価もできないので、金融機関や公認会計士は、財務分析だけではなく動産や知財の勉強が必要条件となります。

-事業性評価を受けやすくなるために、企業側は何すべきでしょうか?
中西:よく言われてるのは「知的創造サイクルを逆回しにしなさい」(※図1)ということです。
何を作るか、そのためにどういう知財が必要か、そのためにはどういう研究開発をしなきゃいけないかのプロセスを考えていくことが大事ですね。
いい技術を取ったからといって、いい知財が取れるわけではないし、いい知財を取ったからいい商品ができるわけではない。
特に大企業になると、技術部門は技術だけ、知財部門は知財だけしか見ていないことがよくあります。
久保田:そのためにも、新しいチャレンジを止めないこと。
今の事業に甘んじず、1つずつでも事業を増やそうという動きが大事ですね。
私が現場を見て感じたのは、自社の特許を活用して現在の業務の売り上げに寄与出来ているとしても、実は技術力の高さには気が付いていないこと。
活用次第では他の新しい業務に転用できる可能性があると、夢を広げて頂きたい訳です。
つまりもっとコラボレーションを加速していただきたい、ということですね。
堺谷:どういうところにニーズがあるのかは、通常業務をしてると見えづらく、なかなか手が回らない。
それこそ金融機関の方とか中小企業診断士の方が「バリュークリエイター」のような立場で、方々に散らばっている企業の課題と技術をマッチングできるとインパクトが大きそうですね。
